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国際養子縁組の闇|「救済の善意」が人身売買を見えなくする理由

国際養子縁組という言葉に、私たちはどんなイメージを抱くだろうか。

「親のいない子どもを救う」
「貧困国の子どもに家庭を与える」
「善意の大人が世界をよくする」

——多くの場合、それは疑いようのない“美しい物語”として語られる。

しかし、どこかで小さな違和感を覚えたことはないだろうか。なぜ、養子に出される子どもはいつも“貧しい国”に集中しているのか。なぜ、手続きには多額の費用が発生するのか。そしてなぜ、「救われたはずの子ども」のその後は、ほとんど語られないのか。

善意が語られるほど、沈黙もまた濃くなる。本当にこれは、ただの「人道的支援」なのだろうか。この章では、国際養子縁組をめぐる“正しすぎる説明”の裏側に潜む、言語化されてこなかったズレを見ていく。

国際養子縁組は「救済の制度」であるという言説

国際養子縁組について、一般的に流通している説明は非常にシンプルだ。世界には、貧困や紛争、社会制度の未整備によって、親を失った子ども、あるいは育てられない家庭に生まれた子どもが数多く存在する。

一方で、先進国には、子どもを望みながらも授かれない夫婦や、養子を迎える意志と経済力を持つ人々がいる。国際養子縁組は、この両者をつなぐ「善意の橋」だと説明される。

この物語の中で、子どもは“救われる存在”であり、養親は“与える側”だ。子どもは劣悪な環境から脱し、教育や医療、安定した家庭を得る。養親は親になる機会を得ると同時に、世界に対して善い行いをしたという倫理的満足を得る。制度を運営する仲介団体や政府機関は、「子どもの最善の利益」を掲げ、中立的な調整役として描かれる。

この説明は、国連や各国政府、国際NGOの公式文書、啓発パンフレット、メディア報道の中で繰り返し語られてきた。そこでは「人身売買」という言葉は、あくまで例外的な不正行為として扱われる。

ルールを守らない一部の悪徳業者が問題なのであって、制度そのものは正しい。だからこそ、より厳格な審査と管理を行えば解決できる——それが主流の理解だ。

また、この説明は感情的にも非常に強い。

・「もし自分がこの子だったら、どちらの人生を選ぶだろうか?」
・「施設で育つより、愛ある家庭のほうがいいに決まっている」

こうした問いは、制度への疑問を“冷酷さ”や“非人道性”と結びつけ、思考停止を促す。

結果として、国際養子縁組は「疑うこと自体が悪いこと」のように扱われる。善意・救済・愛情という言葉が強く前面に出ることで、制度の構造やお金の流れ、権力関係について問う視点は、自然と後景に追いやられていく。

——ここまでが、私たちが長く信じてきた説明だ。だが、この説明だけで、本当にすべてが理解できているのだろうか。

善意の物語からこぼれ落ちるもの

ところが、この「救済の制度」という説明には、どうしても説明しきれないズレが存在する。

その最たるものは、国際養子縁組が“常に同じ方向”に流れているという事実だ。子どもはほぼ例外なく、経済的に弱い国から、豊かな国へと移動する。逆の流れは、ほとんど存在しない。

もし本当に「親のいない子どもを救う」制度であるなら、なぜまず支援されるのは、子どもが生まれ育つ地域の家族や社会ではないのか。なぜ「親と引き離す」という選択肢が、あまりにも早く、当然のように採用されるのか。

さらに、国際養子縁組には多額の費用が発生する。手続き費用、渡航費、仲介手数料——名目はさまざまだが、結果として子ども一人あたり数百万円規模の金が動くことも珍しくない。ここで生じる違和感は単純だ。「救済」であるはずの行為が、なぜこれほどまでに“市場化”しているのか。

加えて、後から明らかになる事例もある。実は親が生存していた。一時的な貧困や誤解によって、子どもが「孤児」として登録されていた。同意書の内容を、親が正確に理解していなかった。

こうしたケースは、制度の「例外」だと説明される。しかし、例外があまりにも繰り返し、あまりにも似た形で起き続けているとしたら、それは本当に例外なのだろうか。

善意の物語は、これらのズレをうまく包み込む。

「不幸な出来事だったが、結果的に子どもは幸せになった」

この一言で、問いそのものがなかったことにされてしまう。だが、違和感は消えない。ただ、語られなくなるだけだ。

「誰が悪いか」ではなく「何がそうさせるか」

ここで必要なのは、「誰が嘘をついているのか」を探す視点ではない。仲介業者が悪いのか、制度が未熟なのか、養親の倫理が足りないのか——そうした犯人探しは、問題を個別化し、全体像を見えなくする。

代わりに必要なのが、「構造」という視点だ。構造とは、個々人の善意や悪意とは別に、人がそう行動せざるを得なくなる配置や関係性のことを指す。

たとえば、

・子どもを国外に出したほうが資金が集まる
・「孤児」と認定したほうが手続きが早く進む
・需要がある国に子どもを供給するほうが制度が回る

こうした条件が揃っていれば、誰かが特別に「悪人」でなくとも、同じ結果が繰り返し生まれる。しかも、そのプロセスは「子どものため」「善意の支援」という言葉で正当化されるため、内部から疑問が出にくい。

構造を見るとは、善意を否定することではない。むしろ、善意がどのように利用され、どの地点で別の意味へと変換されてしまうのかを理解する試みだ。

国際養子縁組の問題は、「嘘をつく人がいる」という話では終わらない。善意が前提に組み込まれた構造そのものが、どんな現実を生み出しているのか。ここから先は、その内部を、もう一段深く覗いていく必要がある。

小さな構造解説|善意が“機能”に変わるとき

ここで一度、国際養子縁組を「善意の集まり」ではなく、構造として整理してみよう。
構造とは、人々の意図や感情とは無関係に、行動の方向性を決めてしまう配置のことだ。

この構造には、少なくとも三つの要素がある。

第一に、「需要」だ。先進国には、養子を望む親が存在する。年齢制限、国内制度の厳格化、不妊治療の限界など、理由はさまざまだが、「子どもを迎えたい」という需要は確実に存在している。

第二に、「供給として位置づけられる子ども」が生まれる環境だ。貧困、社会保障の弱さ、紛争、ジェンダー格差。これらの条件下では、親がいても「育てられない」「育てる資格がない」と判断されやすい。ここで重要なのは、子どもが“自然に孤児になる”のではなく、孤児として定義されるという点だ。

第三に、それらをつなぐ「制度と資金の流れ」がある。養子縁組が成立するほど、組織は運営資金を得られる。手続きが速く、確実であるほど、関係者は評価される。その結果、「子どもを国外に出す」ことが、最も合理的な選択肢として固定化されていく。

この三点が組み合わさると、何が起きるか。誰かが悪意を持たなくても、誰かが嘘をつこうとしなくても、子どもが“移動させられること”自体が、最適解として再生産され続ける。

しかもこの構造は、「救済」「人道」「愛」という言葉によって覆われている。だから内部にいる人ほど、自分が何を担っているのかを自覚しにくい。これが、善意が構造に組み込まれたときに起こる、もっとも見えにくい歪みだ。

あなたの身近な場所にもある

この構造は、過去のどこかの国で起きた特殊な事件ではない。形を変えながら、今も私たちのすぐ近くで繰り返されている。たとえば、

・「助けてあげたい」という気持ちが先に立ち、当事者の声を聞かなくなるとき。
・「結果的に良くなったのだから問題ない」と、過程への問いを閉じるとき。
・「必要としている人がいるから」と、供給される側の選択肢を考えなくなるとき。

そこではいつも、同じ構図が現れる。善意が免罪符になり、疑問が“冷たい態度”として退けられる。声を上げにくい人ほど、「あなたのため」という言葉で決定を代行される。

あなた自身はどうだろうか。正しいことをしているはずだと信じるあまり、立ち止まる機会を失っていないだろうか。善意の側にいる安心感が、問いを手放す理由になっていないだろうか。

この章が投げかけているのは、誰かを告発するための問いではない。「自分は、どの構造のどこに立っているのか」を見つめ直すための問いだ。

あなたが疑わなかった前提は、誰が作ったのか

嘘は悪意の顔をしていない。むしろ「良いこと」の姿をしている。

・平等
・民主主義
・善意
・成功モデル
・安全と便利

それらは疑う対象ではなく、信じる前提として教育される。

だが歴史を検証すると、その前提がどのように形成され、どのように拡張され、どのように正当化されてきたかが見えてくる。本章では、

  • なぜ常識は疑われなくなるのか
  • なぜ「良い言葉」ほど検証されないのか
  • なぜ成功モデルは負の側面を隠すのか
  • なぜ便利さは自由を奪うのか
  • なぜ人は間違いを認められないのか

を、史実と事例で裏付ける。

嘘は「間違い」ではない。構造だ。反復され、教育され、制度化されたとき、嘘は真実の顔を持つ。真実は気持ちよくない。信じてきたものを壊すからだ。それでも、あなたは前提を疑えるか。

解釈録 第2章「嘘と真実」本編はこちら

いきなり歴史の裏側を見る前に、まず自分の前提を点検する

解釈録は、常識を分解する。それは少し痛い。だから、まずは軽い整理から始めてほしい。

無料レポート【「あなたが信じているそれは、本当に真実か?」──嘘と真実の構造チェックレポート】

このレポートでは、

・あなたが疑わない前提は何か
・「良いこと」だから検証していないものはないか
・成功モデルの裏側を見ているか
・便利さと自由の交換に気づいているか

を、チェック形式で可視化する。さらに「神格反転通信」では、歴史の出来事を素材に、常識が形成される構造を一つずつ解体していく。

否定しない。感情的にならない。ただ、疑問を置く。あなたが信じているそれは、本当に自分で選んだものか。

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