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正史とは何か|意味・野史との違いと「正しい歴史」とは限らない理由

正史とは、国家や王朝によって編纂された歴史、あるいは国家から正統な歴史書として認められた記録のことです。

ここで注意したいのが、「正史」の「正」という文字です。

正史は、過去の出来事を完全に正しく記録した歴史という意味ではありません。より正確には、国家やその時代の権力者から、正式・正統なものとして認められた歴史です。

辞書でも正史は、「国家などが編纂した歴史」「正当なものとして国家的に認められた歴史書」と説明されています。中国史においては、『史記』『漢書』『三国志』『明史』など、歴代王朝の正統な歴史書として認められた史書を指します。(コトバンク)

もちろん、正史だからといって、すべてが嘘であるわけではありません。

正史には、その時代の政治、制度、人物、外交、戦争、災害などを知るうえで、極めて重要な情報が記録されています。

ナーガ
ナーガ

しかし、正史を作るのは国家です。

  • どの人物を正統な統治者として扱うのか。
  • どの反乱を正義ではなく「反逆」と呼ぶのか。
  • どの一族を国家の敵として記録するのか。

その判断には、正史を編纂へんさんした側の政治的立場が入り込みます。神格反転では、正史を最初から全面否定するのではなく、なぜこの歴史が正式な歴史として選ばれたのかを疑います。

正史は歴史を知るための重要な資料です。

同時に、今の権力者や勝者が、自らの支配を正当化するために作った物語としての一面も持っているのです。

暁月魔鬼真
暁月魔鬼真
記事執筆者の暁月魔鬼真

この記事の執筆者:暁月魔鬼真

神格反転プロジェクト 代表。京都大学総合人間学部人間科学系専攻・現代文明と科学副専攻卒。現在は、歴史、宗教、金融、政治、社会制度の成立過程を調査し、海外文献の翻訳や記事執筆、物語・動画制作を通して、現代社会の背後にある構造を読み解いている。

現代社会の仕組みに疑問を抱き、その歪みがどのような経緯で形成されたのかを歴史から探るため、独自に調査を始めた。その後、あるきっかけで歴史に詳しい人物と出会ったことを契機に、過去約7年間にわたり、海外の歴史資料や研究文献の翻訳・整理を続けてきた。過去に翻訳記事を掲載していたサイトの一部は、第三者による不正アクセスの影響で、現在閲覧できなくなっているものも少なくない。

大学や研究機関に所属する歴史学者ではないが、学術論文、歴史資料、法典、宗教文書などを参照しながら、特定の学界や企業の前提だけに依存しない独立した立場で歴史を調査している。出来事や制度を単に年代順に整理するのではなく、その制度によって誰が利益を得たのか、誰が土地・労働・自由を失ったのかという社会構造の視点を重視している。

1. 正史とは何か|一文でわかりやすく説明

正史とは、簡単にいえば、次のような歴史書です。

国家や王朝によって編纂された、または正式な歴史書として認定された記録。

正史という言葉には、大きく二つの使い方があります。

一つ目は、国家が公式に編纂した歴史という一般的な意味です。

二つ目は、中国において、各王朝の正統な歴史書として認められた紀伝体の史書を指す専門的な意味です。(コトバンク)

したがって、正史について調べる際は、「国家が編纂した公式の歴史」という広い意味と、「中国の二十四史」という狭い意味を区別する必要があります。

正史の基本的な特徴

正史には、一般的に次の特徴があります。

  • 国家や王朝が編纂に関わっている
  • 政府や王朝から正式な歴史として認められている
  • 統治者、政治、制度、戦争、外交などが中心になる
  • 後世の人々が過去を知るための基礎資料になる
  • 国家の正統性を示す役割を持つことがある

正史は、誰かが自由に書いた歴史小説とは異なります。

公文書、政府の記録、皇帝や天皇の言動、官僚の報告、制度に関する資料などを使って編纂されるため、歴史研究における重要な資料となります。一方で、国家が管理した記録を中心に作られる以上、国家の視点が強くなることは避けられません。

バフォメット
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正史とは、過去のすべてを公平に記録したものではなく、国家が後世に残す価値があると判断した歴史なのです。

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2. 正史の「正」は「正しい」ではなく「正式・正統」の意味

正史という言葉を見て、多くの人が最初に抱くのは、次のような印象ではないでしょうか。

正史なのだから、書かれている内容は正しいのではないか。

しかし、正史の「正」は、必ずしも事実として完全に正しいという意味ではありません。

国家によって正式なものと認められたこと、あるいは正統な王朝の歴史として位置づけられたことを意味します。

このことは、中国の正史の数が時代によって変化していることからも分かります。

中国では、南宋時代には十七史、明代には二十一史、清代には二十二史や二十四史が認められました。その後、『新元史』を加えて二十五史とする数え方も生まれています。(コトバンク)

過去に起きた出来事そのものは変わりません。それでも、何を正史として認めるかは変わります。

これは、「正史」が絶対的な真実の一覧ではなく、国家や時代によって認定された歴史書の分類であることを示しています。

ナーガ
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正史として認める者にも権力がある

どの歴史書を正史として認めるのかを決めるのも、その時代の権力者です。ある歴史書が正史に加えられれば、権威ある資料として後世に残りやすくなります。

反対に、正史から外された記録は、正式ではない歴史、信頼性の低い歴史として扱われやすくなります。

つまり、国家は歴史を書く力だけでなく、どの歴史に権威を与えるかを決める力も持っています。

それは現代社会でも同じです。

会社で問題が起きたとき、会社が公表した調査報告書が正式な記録として残ります。学校で問題が起きたとき、学校や教育委員会が作成した報告書が公的な記録になります。

しかし、公式報告書になったからといって、その内容が当事者の経験をすべて含んでいるとは限りません。

公式であることと、完全であることは別です。正史も、まずこの区別から読まなければなりません。

暁月魔鬼真
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3.正史と野史・外史・稗史の違い

正史とよく比較される言葉に、野史、外史、稗史があります。それぞれの違いを整理すると、次のようになります。

種類主な意味特徴
正史国家が編纂、または正式に認定した歴史公的記録を使いやすいが、国家側の視点が強くなりやすい
野史民間や在野の人物が私的に編纂した歴史正史にない証言や逸話を含む一方、伝聞や誤りが混ざる可能性もある
外史公的機関の命令によらず私的に書かれた歴史野史と近い意味で使われることがある
稗史民間の逸話、細かな出来事、小説的な記録庶民の生活や風俗を伝えることがあるが、創作との区別が必要

野史は、民間や在野の人物が編纂した私的な歴史を指します。外史にも、公的な命令によらず私的に書かれた歴史書という意味があります。(コトバンク)

ここで重要なのは、正史だから正しく、野史だから間違いとは限らないということです。

野史には、公式の記録には書けなかった政権内部の対立や、権力者の不祥事、庶民の生活、地域に残る記憶が記録されることがあります。

一方で、野史には噂、誇張、伝聞、個人的な恨みが入り込むこともあります。正史にも政治的な選択があり、野史にも書き手の偏見があります。

そのため、どちらか一方を無条件に信じるのではなく、正史と野史を照合することが必要です。

暁月魔鬼真
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野史は「偽物の歴史」ではない

野史という言葉には、どこか怪しい歴史という印象があります。しかし、野史は偽史を意味する言葉ではありません。

国家公認ではないというだけで、史料として価値がないわけではありません。正史に書かれなかった人物や、政治の裏側を知るために、野史が重要な手がかりになる場合もあります。

反対に、野史に書かれているだけでは、それが事実だとは断定できません。

正史と野史は、真実と虚偽の関係ではありません。

ナーガ
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公認された歴史と、公認されなかった歴史の違いとして考える方が適切です。

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4.中国の正史とは|二十四史が作られた仕組み

正史という言葉は、特に中国の歴史書を説明するときに使われます。中国では、新しい王朝が成立すると、前の王朝の歴史を編纂することが慣例となりました。

そのように編纂され、各王朝の公式な歴史書として認められたものが正史です。一般的には、『史記』から『明史』までの二十四史を中国の正史と呼びます。(国立国会図書館サーチ(NDLサーチ))

代表的なものには、次の史書があります。

  • 司馬遷の『史記』
  • 班固はんこの『漢書』
  • 范曄はんようの『後漢書』
  • 陳寿ちんじゅの『三国志』
  • 『晋書しん女』
  • 『隋書ずいしょ』
  • 『旧唐書』『新唐書』
  • 『宋史』
  • 『元史』
  • 『明史』

すべての正史が、最初から国家の命令で作られたわけではありません。

『史記』や『漢書』など、初期の正史には、一人の歴史家が強い問題意識を持って書いたものもあります。

ナーガ
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しかし、唐・宋以後になると、朝廷内に歴史編纂の組織が設けられ、皇帝の言動や政務記録を集め、国家事業として前王朝の歴史を編纂する性格が強くなりました。(コトバンク)

なぜ次の王朝が前の王朝の歴史を書くのか

ここに、正史の持つ政治性があります。

前の王朝が滅び、新しい王朝が成立したとします。新王朝は、なぜ自分たちが国を支配する資格を持つのかを説明しなければなりません。そのとき、前王朝を次のように描くことができます。

  • 政治が腐敗した
  • 皇帝が徳を失った
  • 官僚が私腹を肥やした
  • 民衆が苦しんだ
  • 天命が前王朝から離れた
  • 新王朝が秩序を回復した

前王朝の失敗を記録すればするほど、新王朝の成立には必然性が生まれます。つまり、新王朝が前王朝の正史を書くことは、単なる記録保存ではありません。

前の支配者は統治する資格を失った。
だから、私たちが新たに支配するのは正当である。

そのような政治的説明にもなります。もちろん、前王朝が実際に腐敗していた可能性はあります。

しかし、その腐敗を選び、強調し、新しい王朝の正統性へ結びつけるのは勝者です。

正史は歴史書であると同時に、王朝交代を正当化する文書にもなり得るのです。

暁月魔鬼真
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5.日本の正史とは|『日本書紀』と六国史

日本における国家的な歴史編纂の代表が、『日本書紀』から始まる六国史です。六国史とは、次の六つの歴史書を指します。

  1. 『日本書紀』
  2. 『続日本紀』
  3. 『日本後紀』
  4. 『続日本後紀』
  5. 『日本文徳天皇実録』
  6. 『日本三代実録』

8世紀から10世紀初頭にかけて、律令国家の整備を進めた天皇を中心とする政府は、法典とともに国史の編纂に力を入れました。国立公文書館も、『日本書紀』以下の六つを六国史と説明しています。(国立公文書館)

『日本書紀』は日本初の国家による歴史書

『日本書紀』は、養老4年、720年に完成した日本初の国家による歴史書とされています。

漢文と編年体を採用し、国内だけでなく、中国をはじめとする東アジア諸国から読まれることも意識して編纂されました。

その背景には、律令制度を整え、「倭」から「日本」へと国の名称や国家体制を変えつつあった時代状況があります。歴史書の編纂そのものが、古代国家を作る事業の一つだったと考えられています。(國學院大學)

『日本書紀』には、日本の神々、天皇の系譜、王権の成立、政治、外交、戦争などが記録されています。

しかし、ここでも考えなければならないことがあります。

『日本書紀』を編纂したのは、当時の王権側です。そこに記録された歴史は、王権による統治がどのように始まり、なぜ正統であるのかを示す物語でもあります。

国家形成の過程では、中央の王権へ従わなかった氏族や地域勢力もいたはずです。

しかし、その人々が自ら書いた歴史は、ほとんど残っていません。

中央側の記録では「平定」と書かれていても、支配された側から見れば征服だった可能性があります。「反乱」と書かれていても、当事者側から見れば自分たちの土地や秩序を守るための抵抗だったかもしれません。

バフォメット
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その事情を知るには、正史の文章だけでなく、考古学、地域伝承、他国の記録、後世に残った氏族の系譜なども照合する必要があります。

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6.なぜ国家や王朝は正史を編纂するのか

国家が多くの費用と人員を使って歴史を編纂するのは、単に過去を忘れないためだけではありません。正史には、主に四つの役割があります。

6.1. 国家の正統性を示す

誰が正当な統治者なのかを示すことは、正史の重要な役割です。

天皇や皇帝の系譜を過去へさかのぼり、前の統治者から正しく権力を受け継いだことを示せば、現在の支配に正統性を与えられます。

逆に、敵対した人物を簒奪者さんだつしゃ、逆賊、反乱者と位置づければ、その人物を倒した側の正義を示せます。

6.2. 国家の統一された物語を作る

広い地域には、それぞれ異なる神話、文化、祖先の記憶があります。国家が成立すると、それらを一つの物語へまとめる必要が生じます。

  • 誰を共通の祖先とするのか。
  • どの戦いを建国の物語にするのか。
  • 何を国家の始まりとするのか。

正史は、異なる地域や集団を「同じ歴史を持つ国民」としてまとめる役割を果たします。

6.3. 過去の政治を評価する

正史は、過去の統治者の成功や失敗を記録し、現在の政治に役立てるためにも作られます。優れた政治を行った者は模範となり、国を滅ぼした者は戒めとなります。

この役割には、単なる宣伝だけではなく、政策上の失敗を後世へ伝える実用的な価値もあります。

公式の歴史は政治的な正当化に使われる一方、政策判断や組織の反省に役立つ場合もあり、学問と国家目的の両方を持つ複雑な存在です。(UEA Digital Repository)

6.4. 敵と味方を定義する

国家が誰を英雄と呼び、誰を反逆者と呼ぶかは、正史によって固定されます。勝った側の人物は国を救った英雄となり、敗れた側は秩序を乱した者として記録されます。

しかし、これは必ずしも、勝った側が人間的にも正しく、敗れた側が間違っていたことを意味しません。

多くの場合は、勝った側が後世の呼び名を決められたということです。

バフォメット
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この点については、関連記事「歴史は勝者によって作られるのか」で、勝者が教育、記録、善悪の基準を握る仕組みを詳しく扱っています。

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7.正史はどこまで信用できるのか

正史を疑うというと、正史には価値がない、すべて捏造されているという意味に受け取られることがあります。

しかし、それは違います。

正史には、公文書、制度記録、官僚の名簿、外交記録、皇帝や天皇の動静、災害、税制、刑罰など、多くの重要情報が含まれています。

特に、他の記録がほとんど残っていない時代では、正史が過去を知るための中心的な資料になります。中国史においても、正史は数多くの問題点を抱えながら、研究の第一の材料であると評価されています。(コトバンク)

問題は、正史に事実が含まれているかどうかではありません。どの事実が選ばれ、どのような意味づけを与えられたのかです。

正史を読む際には、次の三つを分ける必要があります。

事実の記録

  • ある年に戦争が起きた。
  • 役人が任命された。
  • 法律が制定された。
  • 災害が発生した。

これらは、他の資料と照合することで確認できます。

原因についての解釈

  • 戦争は敵国の野心によって起きた。
  • 反乱は民衆を扇動した人物によって起きた。
  • 王朝が滅びたのは皇帝が徳を失ったからだ。

これらは、出来事に対する解釈です。

善悪についての評価

  • 忠臣である。
  • 逆賊である。
  • 賢帝である。
  • 暴君である。

これらは、編纂者や国家による評価です。

正史の中では、この三つが一つの文章に混ざることがあります。

だからこそ、正史に書かれている事実を使いながら、正史が下した評価については別に検討する必要があります。

歴史家E・H・カーは、過去の無数の事実の中から、歴史家が何を重要な事実として選ぶかという問題を論じました。正史に限らず、歴史叙述には事実の選択が伴います。(Google ブックス)

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8.正史から消えやすい敗者・庶民・周縁の人々

正史は、国家運営を記録するために作られます。そのため、中心となるのは、皇帝、天皇、王、貴族、官僚、将軍、外交使節などです。政治を決定した人物の名前は残ります。

しかし、その決定によって生活を変えられた人々の声は、同じようには残りません。

たとえば、大規模な宮殿が建設されたとします。正史には、誰が建設を命じ、いつ完成したかが書かれます。ところが、石や木材を運んだ人々、税や労役を負担した農民、工事中に亡くなった者の名前は、ほとんど記録されません。

戦争でも同じです。

どの将軍が勝利したかは記録されます。しかし、食料を供出させられた村人、戦場へ連れていかれた兵士、その家族、占領された地域の住民が何を感じたのかは、正史の中心にはなりません。

ミシェル=ロルフ・トルイヨは、歴史における沈黙は、歴史家が文章を書く最後の段階だけで生まれるのではないと論じました。

  • 誰が資料を作れるのか。
  • 何が保存されるのか。
  • どの出来事が重要だと評価されるのか。
  • どの物語が後世に語り継がれるのか。

その各段階で権力が働き、一部の声が歴史から消えていきます。(Google ブックス)

正史が嘘を書かなくても、記録しないだけで歴史の印象は変わります。

王が寺院を建てたことだけを記録し、その費用を負担した庶民の苦しみを記録しなければ、後世には文化を保護した立派な王の姿だけが残ります。

反乱を鎮圧したことだけを書き、反乱が起きた原因を記録しなければ、後世には秩序を乱した反逆者だけが残ります。

正史を疑うとは、書かれている内容だけでなく、そこに書かれていない人々を探すことでもあるのです。

暁月魔鬼真
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9.正史を反転して読む7つの方法

正史の価値を利用しながら、その背後にある権力構造を読むことが大切です。

1.誰が編纂を命じたのかを見る

最初に、歴史書を作らせた人物や組織を確認します。

  • 皇帝なのか。
  • 天皇なのか。
  • 新しく成立した王朝なのか。
  • 幕府なのか。

編纂を命じた者が分かれば、その歴史書が何を正当化しようとしているのかを考えやすくなります。

ナーガ
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2.誰の時代に完成したのかを見る

正史の対象となる時代と、正史が完成した時代は同じとは限りません。前王朝の歴史を、次の王朝が書くこともあります。

その場合、新王朝は前王朝の失敗を強調する動機を持ちます。

誰について書かれたのかだけでなく、誰の支配下で書かれたのかを見る必要があります。

3.出来事の呼び方を疑う

「反乱」「討伐」「平定」「簒奪」「賊軍」といった言葉には、すでに善悪の評価が含まれています。

国家側が反乱と呼んだ出来事を、反対側は独立運動や抵抗運動と考えていたかもしれません。

正史に使われている名称を、そのまま中立的な事実だと思わないことが重要です。

4.利益を得た者と負担した者を分ける

制度、戦争、建設、文化について書かれていたら、次の問いを加えます。

その制度によって利益を得たのは誰か。
その費用や労働を負担したのは誰か。

文化が栄えた時代には、その文化を支えた労働者がいます。領土が拡大した時代には、征服された人々がいます。国家が豊かになった時代には、重い税を負担した人がいる可能性があります。

5.正史と野史を照合する

正史だけでなく、日記、手紙、地域の記録、私的な歴史書、外国の記録などを確認します。

ただし、野史に書かれているから真実だと決めつけてはいけません。

正史と野史の一致点と矛盾点を比べます。

双方に共通する事実は信頼性が高まり、片方にしかない話は慎重に扱う必要があります。

6.考古学や物的証拠と比べる

文書を書いたのは人間です。人間は、自分や所属組織に都合のよい説明を作ることがあります。

一方、遺跡、墓、武器、貨幣、食物の痕跡などは、文章とは異なる角度から過去を示します。

正史が豊かな時代と記録していても、人骨や集落の痕跡から栄養状態の悪化や人口減少が確認されるなら、別の側面を考える必要があります。

7.勝者を悪、敗者を善と決めつけない

正史を反転して読む際に、最も注意すべき点です。

正史が勝者の物語だからといって、敗者が必ず正しいわけではありません。敗者も自分を正当化し、自分に不都合な事実を隠します。本当は悪いことをしているのに、自分は犠牲者だと被害者ヅラしているケースもあります。

重要なのは、勝者と敗者を入れ替えることではありません。双方の説明に同じ基準で証拠を求めることです。

バフォメット
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本当の歴史を調べる方法については、関連記事「本当の歴史を知りたい人へ」で、一次資料の読み方や事実と解釈の分け方を詳しく説明しています。

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10.正史とは「唯一の真実」ではなく検証の出発点

正史とは、国家や王朝が編纂した、または正統な歴史書として認めた記録です。

正史の「正」は、絶対に正しいという意味ではありません。正式、正統、公認という意味です。

正史には、他では得られない貴重な情報が数多く残されています。そのため、正史を読まずに歴史を理解することはできません。

ナーガ
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しかし、正史だけを読んで歴史の全体を理解することもできません。

正史を作ったのは、その時代の権力を持つ者です。中国では、新しい王朝が前王朝の歴史を編纂しました。日本では、律令国家を整備する過程で『日本書紀』をはじめとする国史が作られました。

そこには、過去の出来事を記録する目的だけでなく、現在の王朝や国家の位置づけを示す目的もありました。

だからこそ、神格反転では正史を疑います。それは、正史に書かれていることをすべて否定するという意味ではありません。

  • なぜ、この出来事が選ばれたのか
  • なぜ、この人物は英雄になったのか
  • なぜ、相手は反逆者と呼ばれたのか
  • 誰の声が記録されなかったのか
  • この歴史によって誰の支配が正当化されたのか

そこまで考えるということです。正史は、歴史の答えではありません。

本当の歴史へ近づくための、重要な出発点の一つです。

国家から与えられた歴史をそのまま覚えるのではなく、正史の表と裏を読み、記録から消えた人々の存在を探す。そうすることで、権力者や勝者の物語だけではない、立体的な歴史が見えてきます。

暁月魔鬼真
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11.見えない構造を読み解きたいあなたへ|神格反転の書

正史の問題は、遠い過去だけの話ではありません。

現代でも、国家、会社、学校、報道機関など、記録を作る力を持つ側の説明が、正式な物語として残りやすくなります。

  • 社員が大量に辞めても、会社の公式説明には「社員の能力不足」と書かれるかもしれません。
  • 学校で問題が起きても、学校側の報告書には「重大な問題は確認できなかった」と書かれるかもしれません。
  • 社会制度によって多くの人が苦しんでいても、制度を作った側は「国民のために必要な改革だった」と説明するかもしれません。
バフォメット
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記録を作る側と、その記録の対象になる側では、持っている力が違います。

神格反転プロジェクトでは、歴史だけでなく、政治、教育、経済、労働、人間関係など、一般的に正しいとされている物事を反対側から読み直しています。

  • 誰が利益を得ているのか。
  • 誰が負担を引き受けているのか。
  • 誰の説明が正式なものとして残るのか。
  • 誰の声が最初から存在しなかったことにされているのか。

見えない構造を読み解くための入口として、無料の『神格反転の書』を公開しています。

正史や社会の常識をそのまま受け入れるのではなく、自分の頭で一度反転させて考えたい方は、受け取ってみてください。

説明文よりも物語で見えない構造を読み解きたい方は物語も用意しています。社会の構造、奪う者と創る者、そして真実を取り戻す物語を、文章やイラストの形で展開しています。

こちらは有料ではありますが、1話から3話のみ無料でお読み頂くことが可能です。もしも説明文ではなく、物語の世界を探検したいという場合は、物語録をチェックしてみてください。

正しいと認定されていることと、本当に正しいことは、必ずしも同じではありません。

暁月魔鬼真
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12.主な参考文献・一次資料

正史・野史・外史・稗史の意味

  1. 小学館『デジタル大辞泉』・『精選版 日本国語大辞典』
    「正史」
    正史の一般的な意味、中国における正史、二十四史・二十五史の位置づけを確認するために参照。
    https://kotobank.jp/word/%E6%AD%A3%E5%8F%B2-85837
  2. 小学館『デジタル大辞泉』・『精選版 日本国語大辞典』
    「野史」「外史」「稗史」
    国家公認ではない私撰の歴史、民間で編纂された記録、逸話的・物語的な史書と正史の違いを確認するために参照。
    https://kotobank.jp/word/%E9%87%8E%E5%8F%B2-143647
    https://kotobank.jp/word/%E5%A4%96%E5%8F%B2-457444
    https://kotobank.jp/word/%E7%A8%97%E5%8F%B2-598757

中国の正史・二十四史

  1. 国立国会図書館
    「中国の『正史』の日本語訳」
    新王朝が前王朝の公式歴史書を編纂する中国の伝統、正史の意味、二十四史の構成、日本語訳の刊行状況を確認するために参照。
    https://ndlsearch.ndl.go.jp/rnavi/asia/post_73

日本書紀・六国史・古代国家の歴史編纂

  1. 国立公文書館
    「古事記と六国史―歴史と物語」
    律令国家による国史編纂と、『日本書紀』から『日本三代実録』までの六国史の構成や位置づけを確認するために参照。
    https://www.archives.go.jp/exhibition/digital/rekishitomonogatari/contents/category01.html
  2. 國學院大學
    「なぜ『日本書紀』は日本を名乗るのか」
    『日本書紀』の完成年、漢文・編年体の採用、古代国家の形成、「日本」という国号、東アジア諸国への対外意識との関係を確認するために参照。
    なぜ『日本書紀』は日本を名乗るのか

歴史的事実・権力・公式の歴史

  1. E・H・カー
    What Is History?(邦題『歴史とは何か』)
    過去に起きた事実と、歴史家によって選択され、意味を与えられた「歴史的事実」の関係を確認するために参照。
    https://books.google.com/books/about/What_Is_History.html?id=hFiTEAAAQBAJ
  2. Trouillot, M.-R.(1995)
    Silencing the Past: Power and the Production of History.
    史料の作成、保存、歴史叙述、後世における評価の各段階で、権力が特定の人物や出来事を歴史から沈黙させる仕組みを確認するために参照。
    https://books.google.com/books/about/Silencing_the_Past.html?id=qNkBDlueIxUC
  3. Otte, T. G.(2025)
    “‘Indestructible Superiority Complex’?: The Uses and Pitfalls of Official History.”
    Diplomacy & Statecraft, 36(4), 695–717.
    公式の歴史が政治的な正当化に利用される可能性を持つ一方、過去の政策を検証し、現在の政策判断や公的議論へ役立てられるという二面性を確認するために参照。
    https://ueaeprints.uea.ac.uk/id/eprint/102293/

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