商業資本主義とは?貿易・金融・植民地から富を集めた仕組み

「商業資本主義」という言葉は、世界史や政治経済で一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
- 大航海時代に発達した資本主義。
- 商人が貿易によって利益を得た時代。
- 産業資本主義より前の資本主義。
一般にはこのように説明されます。大まかな方向としては間違っていません。
しかし、この説明だけでは「なぜ商人の貿易が資本主義と呼ばれるのか」が分かりません。
古代にも商人はいました。中世にも市場はありました。遠くの地域から商品を仕入れ、高く売る行為も資本主義よりはるか以前から存在しています。
では、何が変わったのでしょうか。
重要なのは、商売によって得たお金が消費されるだけではなく、さらに大きな商売を行うための「資本」として継続的に運用されるようになったことです。
利益を消費して終わるのではなく、再び事業へ投入することで、資本と商業活動の規模が拡大していきます。
この循環が拡大していきます。
さらに近世ヨーロッパでは、海外交易、銀行、信用、海上保険、会計、勅許会社、株式会社、植民地、国家の軍事力などが結び付き、商業活動そのものの規模が大きくなっていきました。ハーバード・ビジネス・スクールの研究でも、中世からルネサンス期の商人が発展させた会計や銀行などの商業技術が、工業化以前の資本主義形成に重要だったことが整理されています。 (Harvard Business School)
この記事では、商業資本主義を単なる世界史用語として暗記するのではなく、誰が資本を持ち、どのように利益を得て、その利益がどこへ集まり、どのように次の支配力へ変わったのか。という構造から読み解いていきます。


そもそも資本主義そのものがどのような仕組みなのかについては、先に「資本主義とは何か?仕組み・特徴・歴史・メリットと問題点をわかりやすく解説」をお読みください。資本主義では、単に市場や貨幣が存在するだけではなく、私的に所有された資本が利益獲得のために運用され、その利益が再投資されて資本そのものを拡大していくことが重要になります。
1. 商業資本主義とは何か?簡単に言えば「商売によって資本を増やす仕組み」
商業資本主義とは、簡単に表現すれば、商品の売買や遠距離貿易を中心として商人が資本を蓄積していく初期の資本主義的な経済活動を指す言葉です。
典型的な流れは、「お金→商品を購入する→別の市場へ運ぶ→より高い価格で販売する→最初より多くのお金を得る」となります。ここで普通の消費との違いが生まれます。
商業資本主義では、商品の売買や遠距離貿易を利用して、持っている資本をさらに大きな資本へ変えていきます。
例:野菜を売り、そのお金で生活に必要な服を買う。
商品を仕入れ、別の市場へ運び、より高い価格で販売する。
増えた利益を商品仕入れ、船舶、倉庫、人員、金融、会社などへ再び投入することで、さらに大規模な商業活動が可能になります。
商業資本主義で重要なのは、単に商品を売買することではありません。「お金 → 商品 → より多くのお金」という流れによって増えた資本を、再び利益獲得へ投入し続けることです。この循環によって、商業の規模と資本そのものが拡大していきます。
生活のための商品交換なら、「商品→お金→別の商品」です。農家が野菜を売り、そのお金で服を買えば、最終目的は生活に必要な服を手に入れることです。
ところが、商業資本では、「お金→商品→より多くのお金」となります。目的は商品そのものではありません。最初に持っていた資金より多くのお金を最後に得ることです。
さらに、その利益を再び商品仕入れや船舶、倉庫、人員へ投入すれば、「資本→商業→商業→より大きな資本→さらに大きな商業」という循環になります。この「増えた資本をさらに利益獲得へ使用する」という循環が、商業資本主義を見るうえで重要です。
ただし、「商業資本主義」という概念には研究上の定義の幅があります。今日の経済史研究では、歴史が商業資本主義、産業資本主義、金融資本主義という三段階へ機械的に切り替わったと考えるより、商業、産業、金融が重なりながら発達したと見る議論も強くなっています。
Economic History Societyも、近世資本主義を単純な段階論ではなく、商業・産業・金融の組み合わせとして研究する必要性を紹介しています。 (Economic History Society)

したがって本記事でも、「商業資本主義という時代が終了した瞬間に産業資本主義が始まった」とは考えません。
あくまで、工場生産が経済の中心へ移る以前に、商業と遠距離貿易を通じた資本蓄積が大きな役割を果たした局面を理解するための言葉として使用します。

2. 商業資本主義はいつから始まったのか?一つの年を決めることはできない
商業資本主義について調べると、「16世紀から始まった」という説明を見ることがあります。
日本の教育資料でも、16世紀ごろから商業資本家による商業資本主義が発達し、その後18世紀以降の産業革命とともに産業資本主義へ移ったという整理が使われています。 (第一企画)
しかし、歴史を詳しく見ると、それ以前から商業資本主義につながる仕組みは存在していました。

中世ヨーロッパでは都市と遠距離商業が発達し、イタリア商人などによって銀行、信用取引、会計技術、国際的な商業ネットワークが形成されていました。ハーバード・ビジネス・スクールの研究も、中世・ルネサンス期の地中海商業を近代的ビジネス技術形成の重要な前史として扱っています。 (Harvard Business School)
その後、15世紀末以降の航海圏拡大によって商業の規模が大きく変わります。ヨーロッパ内の地域間取引だけではありません。
- 大西洋
- インド洋
- アジア
- アフリカ
- 南北アメリカ
異なる地域が海上交易網によって接続されていきます。
Swarthmore Collegeの『初期現代ヨーロッパの資本主義への移行』でも、1450~1820年頃を対象として、海外探検、植民地化、国際商業の拡大によって商人ネットワーク、商品市場、原材料供給が大きく広がった過程が扱われています。 (Swarthmore Works)
したがって、以下の長い変化として見る方が正確です。

資本主義全体がどのように変化したのかについては、下記を参考にしてください。
3. 商業資本主義ではどうやって利益を得たのか
最も分かりやすい方法が、地域ごとの価格差を利用することです。
たとえば、ある地域で100円相当の商品を購入したとします。別の地域では、その商品が200円相当で売れる。輸送費、保険、人件費、倉庫費、税などに50円かかったとしても、
100円で購入し、50円の費用が発生するので、200円で販売すると50円の利益となります。もちろん、実際の近世貿易はこれほど単純ではありません。
- 船が沈む危険もある
- 戦争が起きる可能性もある
- 商品価格が変動する
- 為替も変わる
- 船員を確保しなければならない
- 海外市場の情報も必要

だから商人が担った仕事自体にも、輸送、保管、情報収集、危険負担、資金融通、市場開拓といった役割がありました。
ここは重要です。「安く買って高く売る」というだけを見ると、商人は何も生み出さず価格差だけを抜いているようにも見えます。
しかし、遠隔地の商品を必要な場所へ運ぶこと、保管すること、商品の供給時期を調整すること、危険を引き受けること、取引相手を探すことにも経済的な機能があります。
したがって、すべての商業利益を「何も生み出していない利益」と同一視するのも正確ではありません。
神格反転で区別したいのは、商業活動が社会に提供した機能に対する対価なのか、それとも独占権、支配力、情報格差、植民地権力などによって価格差を一方的に大きくできた結果なのかという点です。
同じ「商人の利益」でも、その中身は同じではありません。

4. なぜ貿易によって商業資本は巨大化したのか
近くの市場だけで商売している場合、価格差は限定されます。隣町で100円の商品が105円なら、大きな利益は出ません。
ところが、交易距離が長くなると、地域ごとの商品価値や希少性の差が大きくなります。
ある地域では普通に存在する商品が、別の地域では希少品になることがあります。香辛料、織物、茶、砂糖、銀、陶磁器など、多様な商品が長距離交易へ組み込まれていきました。
すると商業資本家にとって重要なのは、「自分が商品を生産できるか」より、「どの商品がどこで安く、どこで高く売れるのかを把握し、その間を支配できるか」になります。

ここで経済力の源泉が、生産能力だけではなくなります。
- 航路を持つ
- 船を持つ
- 港を使える
- 倉庫を持つ
- 取引先を知っている
- 信用を持つ
- 融資を受けられる
- 価格情報を持っている
こうしたものそのものが競争力になります。
Cambridgeの研究でも、近世ヨーロッパでは国際商業の拡大とともに商業ネットワークが広がり、特にヨーロッパとアジアの交易では勅許会社が大きな役割を果たしました。 (ケンブリッジ大学出版局)
つまり、商業資本主義における「資本」とは現金だけではありません。
船、倉庫、信用、商業情報、金融網、海外拠点、国家との関係などが組み合わさって、富をさらに集められる仕組みになっていきます。

5. 商業資本主義と金融はなぜ結び付いたのか
遠距離貿易には大きな問題があります。
お金を出してから戻ってくるまで時間がかかることです。
国内の小さな商売なら、朝に商品を仕入れ、夕方に売れば、その日に資金を回収できます。しかし、海外貿易ではそうはいきません。
- 船を準備する
- 商品を積む
- 何か月も航海する
- 海外で商品を売る
- 別の商品を積む
- 再び航海する
- 帰国して販売する
それまで資金が戻ってきません。しかも船が沈めば、大部分を失う可能性があります。

そこで必要になったのが金融です。信用取引、為替手形、銀行、共同出資、海上保険などによって、商業の危険と資金繰りを支える仕組みが発達しました。
国際貿易金融の歴史研究では、中世の商人・銀行家による信用手段から始まり、アントワープ、アムステルダム、ロンドンなど主要商業都市を通じて国際貿易金融の標準化と集中が進んだことが整理されています。 (arXiv)
ここから、以下の相互作用が生まれます。
さらに複数の人から資本を集めれば、一人の商人では不可能だった規模の海外事業も可能になります。これが後に株式会社や証券市場へつながっていきます。
したがって、商業資本主義は単に「商品を売買した時代」ではありません。貿易を巨大化させるために金融制度そのものが発達していった時代でもあったのです。

6. 商業資本主義と重商主義の違いは何か
商業資本主義と重商主義は同じ時代に登場するため、非常に混同されやすい言葉です。
しかし、同じものではありません。
商業資本主義は、主として、商人や企業が商品取引・遠距離貿易を通じて資本を増やしていく経済活動のあり方を示します。
一方の重商主義は、国家が貿易、関税、産業、植民地などへ介入して国家の経済力を高めようとする政策・政治経済思想を指します。
つまり、
- 商業資本主義=資本がどのように利益を得るか
- 重商主義=国家がその商業をどのように利用・統制するか
という違いです。
ただし、現実の歴史では両者が強く結び付きました。
- 国家は海外貿易によって税収を増やしたい。
- 商人は海外市場で利益を得たい。
- 国家は商人へ独占権を与える。
- 商人は国家へ税や経済力をもたらす。
- 国家は海軍や外交によって商人を支える。
この関係が成立します。
近世ヨーロッパの資本主義形成を扱うCambridgeの研究でも、この時期の商業拡大が国家、重商主義政策、海外貿易、勅許会社などと密接に結び付いていたことが確認できます。 (ケンブリッジ大学出版局)

重要なのは、商業資本主義が自由市場だけによって成立したわけではないという点です。資本主義の初期発展には、国家が市場から撤退するどころか、むしろ国家が航路、軍事、植民地、独占権を通じて商業資本を支えた側面がありました。
7. なぜ植民地が商業資本主義と結び付いたのか
海外貿易の利益を大きくするためには、
- 安く仕入れられる場所
- 高く売れる場所
- 安定して原材料を供給できる場所
- 商品を販売できる市場
が重要になります。そこで植民地が商業経済へ組み込まれていきます。
ただし、植民地貿易を単純な「自由な国際取引」と考えることはできません。植民地化には征服、政治的支配、土地取得、奴隷制、強制労働、独占貿易、法的な差別などが伴った地域がありました。
大西洋奴隷貿易や奴隷制プランテーションとヨーロッパ経済発展の関係については現在も研究と論争がありますが、Economic History Societyの研究紹介でも、奴隷制に基づく長距離市場が英国の海運、金融市場、技術発展などと結び付いたことについて、近年の研究が一定の重要性を認めていることが整理されています。 (Economic History Society)
ここから神格反転で重要になる問いが生まれます。

商品を最終的に高値で売った商人だけを見れば、「商売に成功した」となります。
しかし構造全体を見るなら、
- その商品を誰が生産したのか
- 土地は誰のものだったのか
- 原材料はいくらで取得されたのか
- 労働者にはいくら払われたのか
- 自由に取引を拒否できたのか
- 航路を誰が軍事力で守ったのか
- 利益は最終的にどの地域へ蓄積されたのか
まで見る必要があります。商業資本主義の歴史は、単なる「商人が努力して金持ちになった歴史」ではありません。
世界の異なる地域に存在した資源、労働、価格差、政治力を、一つの商業ネットワークへ組み込んでいった歴史でもあります。

植民地支配そのものについては、下記の記事で歴史側から個別に検証しています。
8. 東インド会社は商業資本主義の象徴だった
商業資本主義を理解するうえで非常に分かりやすい存在が東インド会社です。ヨーロッパとアジアを結ぶ長距離貿易には巨大な資金が必要でした。一人の商人が、
- 船を用意する
- 船員を雇う
- 商品を大量に購入する
- 長期間資金を寝かせる
- 航海失敗の危険を負う
というすべてを背負えば、失敗したときの損失も巨大になります。
そこで多数の出資者から資本を集める仕組みが発達します。
出資
出資
出資
近世ヨーロッパとアジアの交易では、東インド会社のような勅許会社が重要な役割を果たしました。Cambridgeの研究でも、近世を通じてヨーロッパ・アジア間貿易の多くを勅許会社が担ったことが整理されています。 (ケンブリッジ大学出版局)
ここでは、商業資本が単なる「個人商人の財産」から、会社に蓄積された継続的な資本へ変わっていきます。
さらに東インド会社では国家から与えられた独占的権利、海外拠点、軍事力、政治的権限などが加わり、商業資本と国家権力の境界まで曖昧になりました。
同じ東インド会社でも、一方は、株式会社と資本主義。もう一方は、植民地での支配と回収行為。

この株式会社の仕組み、および、現地で起きていたことを確認したい方は下記の記事も参考にしてください。
9. 商業資本主義と産業資本主義の違いとは
商業資本主義と産業資本主義の最大の違いは、利益を得る中心が「流通」から「生産」へ移っていくことです。違いを整理すると以下のようになります。
つまり、産業資本家は、完成した商品を別の場所へ運ぶだけではありません。
生産設備そのものを所有し、生産過程を組織します。
- 工場を建てる
- 機械を導入する
- 労働者を雇う
- 原材料を購入する
- 大量生産する
- 商品を売る
- 利益を再投資する
産業革命によって機械制工場が拡大すると、この形の資本蓄積が経済の中心へ大きく進出しました。
ただし、「商人が全員消え、工場主になった」という話ではありません。工場で生産された商品も、運ばなければ売れません。
- 卸売業
- 小売業
- 海運
- 倉庫
- 銀行
- 保険
こうした商業・金融機能は産業資本主義になっても残ります。
簡単に整理すると、
表は横にスクロールできます

この違いを理解すると、「資本主義=工場」というイメージから離れられます。資本主義的な資本蓄積は、工場より前から商業の中で発達していたのです。
10. 商業資本主義は現代社会にも残っているのか
商業資本主義は過去だけのものではありません。現代企業には産業資本、商業資本、金融資本の要素が混在しています。
たとえば、自社工場をほとんど持たなくても、商品企画、ブランド、仕入れ網、物流、販売網、ECサイト、顧客データを支配することで大きな利益を得る企業は存在します。
「自分が生産設備を所有しなくても、商品が生産者から消費者へ流れる経路を握れば利益を得られる」という意味では、商業資本的な構造は現在にも残っています。
さらにデジタル市場では、売り手を集め、買い手を集め、両者の取引場所を所有し、取引ごとに手数料を得るというプラットフォーム型の商業も発達しました。
ただし、近世の商業資本主義と現代のプラットフォーム企業をそのまま同一視することはできません。現代には競争法、会社法、労働法、消費者保護、証券規制などがあり、技術や市場構造も大きく異なります。
それでも、「商品を自分で作ること」より「商品が通過する市場・流通経路を所有すること」が大きな利益を生むという構造は比較できます。
ここから、「資本主義は本当に自由競争なのか?資産・情報・独占でスタート地点が変わる仕組み」で扱っている市場支配の問題にもつながります。

競争には価格低下、改善、技術革新を促す働きがあります。しかし、勝者が利益を蓄積すると、以下の現象が起こる場合があります。
資本主義の競争は毎回同じ条件から始まるわけではないという点が、神格反転が自由競争を考える際の重要な論点です。

11. 商業資本主義に関するよくある質問
商業資本主義と重商主義は同じですか?
同じではありません。商業資本主義は、商業や貿易を通じて資本を増やす経済活動のあり方です。
重商主義は、国家が貿易、輸出入、産業、植民地などへ介入し、国家の富や力を高めようとした政策・思想を指します。歴史上は両者が強く結び付きました。
商業資本主義は大航海時代から始まったのですか?
大航海時代によって急速に拡大しましたが、その前から遠距離商業、銀行、信用、会計などの仕組みは発達していました。そのため「1492年から始まった」のように一つの年を設定するのは適切ではありません。
商業資本主義の次が産業資本主義ですか?
学校教育では分かりやすくそのように整理されることがあります。しかし実際には商業、金融、工業は重なって発達しており、現在の経済史では単純な三段階論だけで説明しない研究もあります。 (Economic History Society)
商人は何も生産していないのでしょうか?
そのように一括りにはできません。商品を運ぶ、保管する、必要な市場へ届ける、取引情報を集める、危険を負担するといった商業活動には機能があります。
一方で、独占権や政治力によって競争を排除したり、支配地域から不利な条件で資源を取得したりすることで利益率を高める場合は、通常の流通サービスとは分けて考える必要があります。
11. 商業資本主義から見えるのは「生産する者」と「流れを握る者」の違い
ここからが神格反転として重要な部分です。
社会の富を考えるとき、「誰が一番お金を持っているか」だけを見ると構造を見失います。
- たとえば農民が作物を生産する
- 職人が布を作る
- 鉱山労働者が鉱物を採掘する
- 船員が商品を運ぶ
- 倉庫労働者が保管する
- 商人が市場を見つける
- 金融業者が資金を提供する
すべて違う役割があります。しかし、最終的な利益の分配が、それぞれの仕事量だけで決まるとは限りません。
重要なのは、所有権と交渉力だからです。

- 航路を誰が握っているのか。
- 倉庫を誰が所有しているのか。
- 融資できるのは誰か。
- 独占権を誰が持つのか。
- 商品を買う価格を誰が決められるのか。
- 商品を売る市場を誰が持つのか。
こうした権利を持つ側は、自分自身が商品を生産していなくても、商品が流れるたびに利益を受け取れる位置へ立つことができます。
ここに商業資本主義から現代まで続く重要な構造があります。
富を作ることと、富が流れる場所を所有することは同じではありません。
ただし神格反転では、商業や金融そのものを不要とは考えません。生産者が一人で、世界中の顧客を探す、商品の保管をする、輸送する、代金回収する、為替リスクを管理する、広告するとは現実的ではありません。

分業には意味があります。問題になるのは、流通を助ける立場だった者が、やがて、「その流通を通らなければ商売できない」位置まで支配することです。その瞬間、サービス提供者が市場所有者へ性質が変わります。
これは商業資本主義の歴史を見るうえでも、現代の巨大企業を見るうえでも重要です。だから神格反転では、資本主義か社会主義かという名称だけで経済を判断しません。
見るべきなのは、誰が生産手段を所有し、誰が意思決定し、誰が利益を受け取り、誰が危険や費用を負担しているのかです。
神格反転では便宜的に「国家社会主義」という言葉を使用していますが、歴史上のNational Socialism、すなわち、一般的に連想されるナチズムを意味するものではありません。
既存記事では混同を避けるため、「国家主導型社会主義」として、生活に不可欠なインフラや自然独占性の高い領域について公共的な所有・統制を強めながら、それ以外の一般的な商品やサービスでは市場、民間企業、起業、競争を残す考え方として整理しています。
商業資本主義の歴史から学ぶなら、「商売を禁止すればよい」、「利益を禁止すればよい」、「貿易をなくせばよい」という結論にはなりません。

問題は、生活に不可欠な市場や流通経路そのものを少数が所有し、社会全体から継続的に富を回収できる構造になっていないかです。
一方で、公共化にも危険があります。国家が、金融、物流、情報、企業、土地、雇用をすべて独占すれば、今度は国家そのものが巨大な市場支配者になります。
だから公共所有を増やす場合にも、会計公開、監査、権限分散、利益相反規制、住民や利用者による監視などが必要です。
神格反転が目指しているのは「市場を全部なくす社会」ではなく、市場が有効な場所では競争を残し、生活基盤まで資本所有者の利益最大化へ従属させない社会です。詳しくは下記の記事で解説しています。
商業資本主義の歴史を見ると、一つの原則が見えてきます。最初は商売を便利にするために作られた仕組みでも、そこへ資本と権利が集中すれば、その仕組みそのものが力になります。
現代では船が、プラットフォーム、決済網、物流網、データ、知的財産へ置き換わっているだけかもしれません。だから歴史を学ぶ意味は、「商業資本主義=16世紀」と暗記することではありません。

富がどこで作られ、どこを通り、最終的に誰の所有物になるのかを読むことにあります。
13. 商業資本主義のまとめ
商業資本主義とは、単なる「商人が活躍した時代」ではありません。
以上の循環が大規模化した経済のあり方です。
そこへ、銀行、信用、会計、海上保険、株式会社、国家、海軍、植民地が結び付くことで、商人の活動は一都市の商売から世界規模の資本移動へ変わっていきました。
そして、その過程で蓄積された資本、市場、金融、会社制度は、後の産業資本主義にもつながっていきます。
ただし、商業資本主義が産業資本主義になり、金融資本主義が生まれたという単純な一本道だったわけではありません。三つは重なりながら発達しました。
商業資本主義を理解するうえで覚えておきたいのは一つです。
商品を作る者だけではなく、商品が流れる「道」を握る者も富を蓄積できる。
そして、その道の所有が集中すれば、商業上の優位は経済的な権力へ変わります。この構造は、近世の商人だけの話ではありません。現代社会にもつながっています。

14. 見えない構造を読み解きたいあなたへ|神格反転の書
商業資本主義を学校の世界史として覚えるなら、「大航海時代に商人が海外貿易で利益を得て、産業革命以前に発達した資本主義」程度でも試験には対応できるかもしれません。
しかし、それでは歴史を現代へ使うことができません。
- なぜ商人が力を持ったのか。
- なぜ金融が必要になったのか。
- なぜ株式会社が生まれたのか。
- なぜ国家が特定企業へ独占権を与えたのか。
- なぜ植民地が商業圏へ組み込まれたのか。
- なぜ利益がさらに大きな資本へ変わったのか。
そして、その仕組みから最も利益を得たのは誰だったのか。
ここまで見ることで、初めて歴史が現在とつながります。
過去を知る目的は、昔の年号を覚えることではありません。現代で同じ構造に出会ったとき、「これは誰に有利な仕組みなのか」と自分で判断できるようになることです。
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14. 参考文献
商業資本主義・近世資本主義の形成
- Robert S. DuPlessis(2019)
Transitions to Capitalism in Early Modern Europe: Economies in the Era of Early Globalization, c. 1450–c. 1820, 2nd ed., Cambridge University Press.
中世末から産業革命前夜までのヨーロッパを対象に、商業化、世界貿易、市場拡大、植民地化、都市・農村生産の変化と資本主義形成を総合的に確認するために参照。
https://www.cambridge.org/core/books/transitions-to-capitalism-in-early-modern-europe/B5C623C5667853EF87A232B5024B713C - Sophus A. Reinert & Robert Fredona(2017)
“Merchants and the Origins of Capitalism.”
Harvard Business School Working Paper, No. 18-021.
中世・ルネサンス期の商人、地中海商業、銀行、会計、信用などの商業制度が、工業化以前の資本主義形成へ果たした役割を確認するために参照。
https://www.hbs.edu/faculty/Pages/item.aspx?num=53259 - Economic History Society(2025)
“Early Modern Capitalism: Trade, Risk and Profit.”
近世資本主義を、商業資本主義から産業資本主義、金融資本主義へ単純に置き換わる一本道としてではなく、商業、産業、金融、リスク、利益などが重なり合う歴史的構造として捉える研究上の論点を確認するために参照。
Early Modern Capitalism: Trade, Risk and Profit
貿易金融・資本主義の基本構造
- Olivier Accominotti & Stefano Ugolini(2020)
“International Trade Finance from the Origins to the Present: Market Structures, Regulation and Governance.”
中世の商人・銀行家による信用取引から、アントワープ、アムステルダム、ロンドンを中心とした国際貿易金融の発展、手形の標準化、近現代の貿易金融市場までの長期的変化を確認するために参照。
https://arxiv.org/abs/2009.08668 - Sarwat Jahan & Ahmed Saber Mahmud(2015)
“What Is Capitalism?”
Finance & Development, International Monetary Fund.
資本主義における私的所有、市場による価格形成、利益動機、競争といった基本的な特徴を確認し、商業資本主義を資本主義全体の中へ位置付けるために参照。
https://www.imf.org/en/publications/fandd/issues/series/back-to-basics/capitalism
奴隷制・大西洋貿易と資本主義の形成
- Gavin Wright(2020)
“Slavery and Anglo-American Capitalism Revisited.”
Economic History Review, 73(2), 353–383.
奴隷制、奴隷貿易、大西洋市場と英国・米国の資本主義的発展の関係を検討した研究。長距離市場、海運、金融市場、産業発展との関係を確認するとともに、奴隷制が産業革命や資本主義形成へ与えた寄与の規模について単純化を避けるために参照。
Slavery and Anglo‐American capitalism revisited
















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