重商主義と資本主義の違いとは?国家が富を集めた時代から市場社会への変化

重商主義と資本主義は何が違うのでしょうか。
・重商主義は国家が経済を支配する仕組み。
・資本主義は自由市場で企業が競争する仕組み。
このように説明されることがあります。大まかな方向としては間違っていませんが、この説明だけでは重要な部分が抜け落ちています。
なぜなら、重商主義の時代にも民間商人は存在し、会社も利益を求め、出資者も投資を行っていたからです。むしろ17世紀の東インド会社を見ると、国家から独占貿易権を与えられた株式会社が巨大な利益を追求しています。
つまり、重商主義=国家だけが経済活動を行う社会ではありません。一方で、資本主義=国家がまったく経済へ介入しない社会でもありません。

現代の資本主義国にも関税、補助金、中央銀行、独占禁止法、産業政策、公共事業があります。
したがって、「重商主義と資本主義の違い」を理解するためには、単純に国家か民間かで分けるのではなく、誰の富を増やすことを重視したのか、国家と企業がどのような関係にあったのか、市場をどこまで自由にしたのかを見る必要があります。
結論からいえば、重商主義とは、近世ヨーロッパで国家の富と権力を強化するために、貿易、関税、植民地、独占企業などを積極的に利用した政策・政治経済思想です。16世紀から18世紀後半まで西欧で大きな影響を持ったと整理されています。(Econlib)
一方、資本主義とは、土地、企業、設備などの財産を主に私人が所有し、市場で取引し、利益を得て、その利益を再投資することで資本を拡大していく経済制度です。IMFも、私的所有、市場で形成される価格、利益動機などを資本主義の主要な特徴として整理しています。(IMF)
しかし、歴史的にはこの二つは重なっています。
重商主義の時代の商業活動や株式会社、世界貿易、資本蓄積が、その後の資本主義の発展につながった。
この関係を見ることが重要です。
この記事では、重商主義と資本主義の違い、および、国家が富を集めた時代から市場社会への変化を見ていきます。やっていることが、その人の正体。


資本主義そのものの基本構造については、先に「資本主義とは何か?仕組み・特徴・歴史・メリットと問題点をわかりやすく解説」で詳しく整理しています。現在の資本主義から歴史を逆算して読む場合は、こちらを先に読むと理解しやすくなります。
1. 重商主義と資本主義の違いを先に結論から比較する
まず、両者の違いを簡単に整理します。
表は横にスクロールできます
ここで特に重要なのが一番上です。重商主義と資本主義は、そもそも完全に同じ階層の言葉ではありません。

重商主義は政策思想です。資本主義は経済システムです。
そのため、「重商主義 vs 資本主義」という完全な二者択一ではなく、重商主義的政策の下でも、資本主義的な商業や企業が発達したと考えた方が歴史的には正確です。
15世紀から18世紀のヨーロッパに存在した初期資本主義経済は、自由市場だけで動いていたわけではなく、重商主義的制度によって市場活動が制限・管理されていました。(ケンブリッジ大学出版局)
2. 重商主義とは何か?国家を強くするための経済政策
重商主義とは、16~18世紀を中心とする近世ヨーロッパで広がった政治経済思想です。一言でいえば、経済を国家の富と権力を増やすために利用するという考え方です。
当時のヨーロッパでは、現在のような国際的な自由貿易体制は成立していませんでした。国家同士は軍事的にも経済的にも激しく競争していました。
- 船を作る
- 海軍を維持する
- 兵士を雇う
- 植民地を獲得する
- 要塞を建設する
こうした活動には巨大な資金が必要です。そこで、国家にとって重要になったのが、貿易と税収でした。
- 輸出を増やす。
- 輸入を抑える。
- 外国から金銀を獲得する。
- 国内産業を保護する。
- 外国との貿易を自国商人に担わせる。
- 植民地を自国の貿易圏へ組み込む。
こうした政策によって国家の経済力を高めようとしたのです。
Econlibでは、重商主義を、富裕で強力な国家を形成することを目的とした経済ナショナリズムとして説明し、輸入を抑制し輸出を奨励する政策を代表的特徴として挙げています。(Econlib)
ここで重要なのは、金を稼ぐことそのものが最終目的ではなかったという点です。経済力は軍事力になります。税収は軍隊になります。造船業は海軍になります。海外貿易は国家の影響力になります。
重商主義では、経済活動が国家の税収、軍事力、領土拡大へ結び付けられ、さらに次の経済力を生む循環になりやすい。
つまり、商業と国家権力が非常に強く結び付いていました。

3. 資本主義とは何か?私人が資本を増やしていく仕組み
これに対して、資本主義では、中心となるのは国家だけではありません。資本主義は基本的に以下のような循環になっています。
土地・工場・会社・設備・株式など
IMFは資本主義について、私人が財産を所有・管理し、価格が需要と供給によって形成され、利益を得る動機が経済活動を動かす制度として整理しています。(IMF)
つまり、重商主義では「国家をどう富ませるか」が中心的問題になりやすく、資本主義では「資本を所有する主体がどう利益と資本を拡大するか」が制度の中心になります。
ただし、ここも単純化してはいけません。資本主義国家でも、国家は経済へ介入します。
- 関税をかける。
- 金融政策を行う。
- 企業へ補助金を出す。
- 社会保障を行う。
- 道路を造る。
- 独占を規制する。
したがって「政府が介入したら資本主義ではない」ということではありません。

資本主義にも、政府介入の少ない自由放任型、政府が市場の問題を修正する修正資本主義、社会保障を重視する福祉資本主義、国家自身が企業へ強く関与する国家資本主義などがあります。
4. 最大の違いは「国家と市場のどちらを中心に見るか」
重商主義と近代的な自由市場型資本主義の違いとして分かりやすいのが、国家と市場の関係です。
重商主義では、国家が市場の外からルールだけを作っていたわけではありません。国家自身が経済競争のプレイヤーに近い存在でした。
- 自国商人を保護する。
- 外国製品へ関税をかける。
- 航路を確保する。
- 植民地を獲得する。
- 特定会社へ独占権を与える。
- 海外市場を軍事力で守る。
こうして、商人の利益と国家の利益を結び付ける政策が行われました。一方、自由市場型の資本主義では、国家が特定企業を直接勝たせるよりも、多数の企業が市場で競争することを理想とします。
A社、B社、C社、D社が同じ市場へ入り、消費者が商品を選ぶ。良い商品を作った企業が成長する。競争に負けた企業は退出する。その結果、市場全体の効率が高まる。

これが自由競争の基本的な考え方です。ただし、実際の資本主義では資本、情報、ブランド、ネットワーク効果などによって競争条件は均等ではありません。
5. 重商主義ではなぜ金銀が重視されたのか
重商主義を説明するときによく出てくるのが「金銀」です。「重商主義者は金銀こそ富だと考えた」と説明されることがあります。
ただし、これも少し注意が必要です。特に初期の重商主義では、金銀などの貴金属を国内へ蓄積することを強く重視する重金主義が存在しました。
しかし、後の重商主義全体を「金銀を倉庫へ貯め込むだけの思想」と考えるのは単純化しすぎです。
重要なのは、外国との貿易によって国家の経済力を高めるという発想でした。
外国との貿易によって富を国内へ取り込み、産業・税収・国家の力へつなげていくという考え方です。
国内で生産した商品を外国へ販売する。
輸出した商品の代金が国外から支払われる。
貿易によって国内へ貨幣や貴金属などの富が入る。
輸出需要によって生産、商業、造船などの産業が拡大する。
貿易や国内経済の拡大によって国家が得られる税収も増える。
増えた財源を軍事、海軍、港湾、行政などへ投入できるようになる。
重商主義で重視されたのは、単に商人が利益を得ることではなく、外国との貿易を国家全体の経済力・税収・国力へ結び付けることでした。
当時、世界的な決済に使用できる金銀は、軍事や国際貿易を行う国家にとって非常に重要な資源でした。だからこそ、スペイン帝国は、新大陸から大量の銀をヨーロッパへ運びました。
しかし、大量の銀を手に入れることと、持続的な産業力を作ることは同じではありません。銀、貿易、産業、国家財政の関係については、「スペイン帝国はなぜ衰退したのか|ポトシ銀山と“成功の錯覚”」でも詳しく扱っています。
ここから現代にも通じる一つの教訓が見えます。
それは、金を持つことと、価値を生み続けられる社会を持つことは違うということです。
大量のお金があっても、食料、エネルギー、技術、工業、人材、生産設備がなければ国家は維持できません。
神格反転が「富」を単なる通貨量だけで考えない理由もここにあります。本当の社会的な富は、人間が生きるために必要なものを作り続けられる能力にあります。

6. 重商主義では国家と巨大商人が結び付いた
重商主義を見るうえで非常に重要なのが、国家と商人の関係です。
「国家が企業を支配した」だけではありません。逆方向もありました。
- 巨大商人や企業が国家権力を利用する
- 国家が商人へ特権を与える
- 商人が国家へ税収や資金をもたらす
- 国家が軍事力で商業圏を守る
この相互関係です。
象徴的なのが東インド会社です。イギリス東インド会社は1600年に設立され、王室から東方貿易に関する特権を与えられました。これは現代の普通の株式会社とはかなり違います。
競争相手より良い商品を作って市場で勝ったから独占したのではありません。国家から独占する権利そのものを与えられたのです。
近世ヨーロッパでは、こうした勅許会社がヨーロッパとアジアの長距離貿易で大きな役割を担いました。ケンブリッジの研究でも、初期近代の欧亜貿易に勅許会社が大きく関与したことが整理されています。(ケンブリッジ大学出版局)
そして東インド会社は、やがて単なる商社ではなくなります。
- 軍隊を持つ。
- 戦争をする。
- 土地を支配する。
- 徴税する。
- 行政へ関与する。
この過程については下記の記事でまとめています。
ここで起きていたのは、下記の循環です。
国家が企業へ独占的な権利を与え、企業が海外で得た利益や税収が本国へ戻り、その見返りとして国家が企業の活動を軍事力や政治力で支える構造が生まれました。
王権や政府が貿易政策と海外進出を主導する。
特定地域の貿易や事業について、国家が特許・勅許などによる独占的権利を与える。
貿易、植民地事業、資源取引などから企業が収益を獲得する。
企業の利益や貿易から生じた税収が、本国の商人・投資家・国家財政へ還流する。
海軍、外交、軍事力などによって航路や商業圏、企業の活動を支える。
企業が利益を生むほど国家の財政が強まり、国家が強くなるほど企業の海外活動をさらに支援できる。
ここで重要なのは、国家と企業が対立する存在ではなく、互いの力を利用し合う関係になっていたことです。国家は企業へ独占的な権利と軍事的支援を与え、企業は利益や税収を本国へもたらしました。
これは「国家か企業か」という二者択一ではありません。国家権力と民間資本が結び付いた構造です。

7. 植民地は重商主義とどう結び付いていたのか
重商主義の歴史を植民地抜きで語ることは困難です。当時の国家にとって、植民地は単なる領土ではありませんでした。
- 原材料を得る場所
- 商品を売る市場
- 税収を得る場所
- 海軍基地
- 貿易航路
- 農園
- 金銀鉱山
これらを確保する意味がありました。つまり、植民地は、下記の経済圏の一部でした。
植民地は単なる領土ではなく、資源の供給地と商品の販売先を組み込んだ経済圏として利用されることがありました。
農産物、鉱物、原材料などを本国へ運ぶ。
原材料を工房や工場で加工し、より付加価値の高い商品へ変える。
本国、植民地、海外市場などへ商品を販売する。
商人や企業が利益を得るとともに、国家も関税や税によって財源を得る。
得られた利益や税収が、さらに船舶、軍事、貿易、植民地経営へ投入され、経済圏の維持・拡大へつながる。
この構造では、植民地は原材料の供給地であると同時に、本国の商品を販売する市場として経済圏へ組み込まれました。ただし、植民地ごとの制度や実際の交易構造には大きな違いがあります。
イギリスをはじめとした重商主義政策では、植民地貿易を本国側へ有利に組織する制度が作られました。重商主義は近世国家の財政的基盤と繁栄を構築するための思想として位置づけられます。
しかし、その「国家の富」がどこから来たのかを見る必要があります。
- 現地の土地
- 現地の資源
- 現地住民の労働
- 奴隷労働
- 鉱山
- 農園
- 交易
こうしたものが大西洋を越えて移動しました。だから、重商主義を、国家が賢く輸出を増やした経済政策だけとして理解すると、植民地側で何が起きていたのかが消えてしまいます。
「大航海時代から植民地経済が形成されていった背景」や「植民地から資源、土地、労働力がどのように移転されたのか」については、下記の記事を参考にしてください。

8. 重商主義から資本主義へ何が変わったのか
では、いつ重商主義が終わって資本主義になったのでしょうか。
歴史は、重商主義があって、ある日終了して翌日から資本主義という形では変化していません。
経済制度は突然入れ替わったのではなく、商業・都市・世界貿易・金融・工場生産などの発達が長期間にわたって積み重なった結果として変化していきました。
土地と身分関係を中心とした社会が存在する。
商品交換や市場、地域間の商取引が拡大する。
都市経済が拡大し、商人が富と影響力を持つようになる。
海外航路が広がり、遠隔地との貿易や植民地経済が拡大する。
国家が貿易、関税、産業保護、独占権などを通じて経済へ強く関与する。
出資、株式、金融、長距離貿易によって大規模な資本を集められるようになる。
機械、工場、賃金労働による大規模な生産体制が広がる。
工場、生産設備、賃金労働、利益の再投資を中心とする資本主義が発達する。
「重商主義が終了し、その翌日から資本主義になった」わけではありません。 商業、株式会社、金融市場、世界貿易など資本主義につながる仕組みは重商主義の時代にも発達しており、それらが工場制や産業革命と結び付くことで、長い時間をかけて産業資本主義へ変化していきました。
ケンブリッジの研究でも、封建制から資本主義への移行は何世紀にもわたる長期的過程であり、1600年当時の人々が現代的意味で「いま資本主義へ移行している」と認識できるような単純な転換ではなかったことが指摘されています。(ケンブリッジ大学出版局)
この意味で重商主義は、資本主義以前の完全に別世界というより、近代資本主義が形成されていく時代に存在した国家主導の政治経済政策として見る方が分かりやすいでしょう。
下記の記事で15~18世紀の初期資本主義的経済が重商主義的国家政策と共存していたことを整理しています。

9. アダム・スミスは重商主義の何を批判したのか
この変化を理解するうえで重要なのが、1776年に『国富論』を刊行したアダム・スミスです。スミスは『国富論』第4編で「商業主義または重商主義の体系」を詳しく批判しました。
当時の政策では、
- 輸入を制限する
- 輸出を奨励する
- 特定業者へ特権を与える
- 植民地貿易を制限する
といった政策が広く行われていました。
『国富論』第4編には、輸入制限、輸出奨励、通商条約、植民地、重商主義体系などを直接扱う章が並んでいます。(Econlib)
スミスの重要な転換は、国家がどれだけ金銀を集めたかだけではなく、社会の人々がどれだけ商品や生活手段を生産し、利用できるかを重視したところにあります。そして、特定商人だけへ独占権を与える政策を批判しました。
ここから自由貿易や市場競争を重視する古典派経済学が発展していきます。
ただし、「アダム・スミス=国家不要論」ではありません。スミス自身も国防、司法、公共事業など国家の役割を認めています。
したがって「重商主義では国家、スミス以後は完全放任」という説明も正確ではありません。
変化したのは、国家が特定企業を保護して国家間の貿易競争を行う発想から、より広い市場競争によって社会全体の生産と交換を拡大する発想へ重心が移ったことです。
10. 重商主義が消えれば自由競争になったのか
ここで、神格反転として非常に重要な問題があります。
重商主義では国家が独占企業を作りました。それなら、国家の特権をなくして自由競争へ移れば、独占は消えるのでしょうか。
必ずしもそうではありません。資本主義では、以下の流れが起きやすいです。
資本主義では競争が行われますが、競争の結果として生まれた勝者が利益を再投資することで、次の競争でもさらに有利になる場合があります。
複数の企業が価格、品質、サービスなどで顧客を取り合う。
競争力の高い企業が多くの顧客や売上を獲得する。
市場で優位になった企業ほど、大きな利益を得られる可能性が高まる。
資金力、規模、ブランド、人材などの差が次の競争へ持ち越される。
撤退、倒産、買収などによって市場に残る企業が少なくなる場合がある。
少数の企業が市場の大きな割合を占める状態へ進むことがある。
「自由競争が存在すること」と「競争状態が永続すること」は同じではありません。競争で得た利益を設備、広告、人材、技術、買収などへ再投資できれば、勝者がさらに強くなり、市場集中が進む場合があります。ただし、すべての市場が必ず独占・寡占になるわけではありません。
つまり、重商主義では国家が独占権を作ることがあり、資本主義では市場競争そのものから市場集中が生まれることがあります。
独占へ至る経路が違うのです。これは非常に重要な違いです。
重商主義型では、「国家→特権付与→独占」という流れです。自由競争型資本主義では、「競争→勝者→資本蓄積→市場支配」という流れがあり得ます。
したがって、国家を市場から引き離せば権力集中そのものが消えるわけではありません。国家権力の集中を防いだ結果、今度は私的資本へ権力が集中することもあります。この構造については「資本主義は本当に自由競争なのか?」でも詳しく扱っています。

11. 現代社会にも「重商主義的」な政策は存在する
重商主義は18世紀で完全に消滅した古い思想なのでしょうか。
歴史上の重商主義と現代政策をそのまま同一視することはできません。
現代にはWTOを中心とする国際貿易ルール、変動相場、中央銀行、グローバル金融市場、多国籍企業など、近世には存在しなかった制度があります。
しかし、
- 国内産業を補助する
- 外国製品へ関税をかける
- 重要産業を国内へ戻す
- 国家安全保障を理由に技術輸出を制限する
- 重要資源を国家戦略として確保する
といった政策は現在も存在します。そのため、現代の保護主義や産業政策を説明するときに「新重商主義」という言葉が使われる場合があります。
ただし、関税=即重商主義ではありません。食料安全保障、防衛、感染症対策、半導体、エネルギーなど、市場価格だけでは評価できない政策目的もあるからです。
重要なのは政策の看板ではなく、誰を守る政策なのかを見ることです。

- 国民全体の生活基盤を守るためなのか。
- 特定企業の利益を守るためなのか。
- 国家安全保障なのか。
- 既得権益なのか。
同じ「産業保護」でも中身はまったく違います。
12. 神格反転では重商主義と資本主義をどう読むのか
神格反転では、重商主義を単純に悪、資本主義を単純に善とは考えません。逆も同じです。重商主義には、国家が自国の産業、技術、航路、経済基盤を守ろうとした側面があります。
国家の生存に必要な産業をすべて外国へ依存すれば、戦争や災害などで供給が途絶えたときに国家そのものが危険になります。
この意味では、国家が重要産業を守るという発想自体には役割があります。
一方で、国家と特定商人が結び付けば、独占権、補助金、植民地、軍事力、徴税などを利用して、一部の企業だけが利益を得る制度にもなります。東インド会社は、この危険性を非常に分かりやすく示しています。
資本主義にも同じ両面があります。市場競争によって新しい商品が生まれます。企業が自由に起業できます。技術革新が起きます。国家がすべての生産を決める必要もありません。
一方で、資本を持つ者がさらに資本を増やし、企業、市場、土地、データなどの所有権が少数へ集中する可能性があります。
したがって神格反転で見るべきなのは、「国家か市場か」ではありません。
- 誰が所有しているか
- 誰が決定しているか
- 誰が働いているか
- 誰が利益を得ているか
- 誰が危険を負担しているか
この五つです。
神格反転では、水道、基幹インフラなど国民の生存に不可欠で市場競争が成立しにくい領域には国家・自治体・公的主体が強く関与し、一方で通常の商品、創作、飲食、サービスなど競争が有効な領域には市場を残す「国家主導型社会主義」という方向を提案しています。

ただし、国家所有なら自動的に公正になるわけではありません。国家権力が一部の政治家や官僚へ集中すれば、重商主義時代とは別の形で権力と富が集中します。
そのため、国家介入を採用する場合にも情報公開、監査、利益相反規制、権力分散などが必要です。
重商主義の歴史から学べるのは、国家が強ければよいでも、市場を自由にすればよいでもありません。国家へ権力を集めれば、国家が暴走する可能性があります。企業へ権力を集めれば、企業が市場を支配する可能性があります。
だからこそ、富と権力がどこへ集まっているのかを常に確認する必要があります。
「資本主義、社会主義、共産主義の所有構造の違い」および「現在の資本主義以外にどのような制度設計があり得るか」について下記でまとめています。

13. 重商主義と資本主義についてよくある質問
重商主義と資本主義の一番大きな違いは何ですか?
重商主義は国家の富と権力を強化するために貿易、関税、産業保護、植民地などを利用する政策思想であり、資本主義は私人による所有、市場取引、利益、投資、資本蓄積を中心とする経済制度です。
そのため、完全な反対語ではありません。重商主義的政策を行う資本主義も歴史上存在しました。
重商主義の次が資本主義なのですか?
単純には言えません。商業活動、株式会社、投資、世界貿易など資本主義につながる仕組みは重商主義期にも発達していました。
そのため、重商主義から資本主義へ完全に入れ替わったというより、重商主義的な国家管理の下で初期資本主義が発展し、その後、自由市場や産業資本主義へ重心が移っていったと考える方が適切です。
重商主義ではなぜ輸出を増やそうとしたのですか?
外国へ商品を売り、国外から富を流入させることが国家の経済力を高めると考えられたからです。そのため輸出奨励、輸入制限、国内産業保護などが行われました。
アダム・スミスは重商主義に反対だったのですか?
はい。『国富論』第4編では重商主義的政策を詳細に批判しています。特に輸入制限、輸出奨励、独占的特権などを問題視し、より自由な商業活動を擁護しました。
東インド会社は重商主義ですか?資本主義ですか?
この質問こそ、両者を完全に分離できないことを示しています。
東インド会社は出資者から資本を集め、利益や配当を求める株式会社という資本主義的性質を持つ一方、国家から独占貿易権などの特権を得て活動した重商主義的企業でもありました。
したがって、重商主義か資本主義かという二択より、重商主義的国家政策と初期資本主義的企業が結び付いた存在と見る方が分かりやすいでしょう。
重商主義と保護貿易は同じですか?
同じではありません。輸入制限や国内産業保護は重商主義の代表的政策ですが、現代でも安全保障、食料、環境、幼稚産業保護などさまざまな理由で関税や補助金が使われます。
したがって、保護政策が存在するだけで、その国全体を歴史上の重商主義と呼ぶことはできません。

14. 見えない構造を読み解きたいあなたへ|神格反転の書
重商主義から資本主義への歴史を見ると、一つ興味深いことが分かります。時代が変わっても、富と権力がなくなるわけではありません。その集まり方が変わります。
重商主義では、国家、王室、特許会社、大商人、へ富と権力が集中することがありました。近代資本主義では、企業、資本家、金融機関、株主、プラットフォーム所有者、へ富と所有権が集まる場合があります。
つまり歴史を学ぶ意味は、「昔は重商主義でした」と用語を暗記することではありません。
誰が制度を作り、誰が利益を得て、誰がその費用を負担したのかという構造を、現代と比較することです。
- 東インド会社が国家から独占権を与えられていた。だから昔は悪かった。
- 現代は自由競争だから問題ない。
そこで思考を止めてしまえば、現代の独占構造は見えません。
逆に、企業は危険だから国家へ全部任せればよいと考えれば、今度は国家権力の集中が見えなくなります。
神格反転が重視するのは、制度の名前ではありません。
- 資本主義。
- 社会主義。
- 重商主義。
- 自由主義。
どの看板であっても、実際に価値を作る人、所有する人、決定する人、利益を得る人、危険を負担する人を分けて見るこの視点です。
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敵は嘘により栄え、真実により滅ぶ。
やっていることが、その人の正体。

15. 参考文献
重商主義の基本概念・国家・貿易政策
- Library of Economics and Liberty(Econlib)
“Mercantilism”
16~18世紀の西欧における重商主義の基本概念、輸入抑制、輸出奨励、国家の富と権力の強化、保護貿易などの特徴を確認するために参照。
Mercantilism
重商主義・初期資本主義・勅許会社・商業資本
- Cambridge University Press
The Cambridge History of Capitalism
“Modern Capitalism”
15~18世紀に形成された初期資本主義経済と重商主義的な国家制度の関係を確認するために参照。重商主義と資本主義を完全に分離された二つの時代としてではなく、重商主義的政策の下でも市場、商業、資本蓄積が発展していたことを確認するための文献。
https://www.cambridge.org/core/books/cambridge-history-of-capitalism/moderncapitalism/5927F7560358B05FFCC9D522E431A6A2 - Cambridge University Press
Transitions to Capitalism in Early Modern Europe
“Commerce, Capital, Consumption”
近世ヨーロッパにおける商業資本、長距離貿易、勅許会社、欧亜貿易などが資本主義形成へ果たした役割を確認するために参照。国家から特権を与えられた企業と初期資本主義の関係を考えるための資料として使用。
https://www.cambridge.org/core/books/transitions-to-capitalism-in-early-modern-europe/commerce-capital-consumption/5CA82E09215449D07AB0FE9A1F63CBFF
アダム・スミスの重商主義批判・資本主義の基本構造
- Adam Smith(1776)
An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations
Book IV「Of Systems of Political Economy」
『国富論』第4編における商業主義・重商主義体系への批判、輸入制限、輸出奨励、独占的特権、植民地政策などに対するスミスの議論を一次資料から確認するために参照。
An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations
- International Monetary Fund(IMF)
“What Is Capitalism?”
資本主義における私的所有、市場による価格形成、利益動機、競争、資本の利用などの基本的な特徴を確認し、重商主義との違いを整理するために参照。
https://www.imf.org/en/publications/fandd/issues/series/back-to-basics/capitalism







































